自殺した不登校児の「75%は再登校」していた 不登校児の親が「やってはいけない」ことを精神科医が伝授

精神科医・松本俊彦先生に聞く 「不登校と過剰適応」

精神科医:松本 俊彦

子どもが不登校になったとき、NGな声がけや行動、不登校増加の原因について精神科医・松本俊彦先生に聞きました。  写真:アフロ

夏休みが終わり、2学期が始まりました。新学期初日の9月1日に子どもの自殺が多いことは知られつつありますが、その日を越えたら安心というわけではありません。

不登校の子どもをサポートする精神科医・松本俊彦先生は、不登校の場合、その先に連なる「過剰適応」のほうが深刻な問題と言います。

「過剰適応」とは何か、子どもが学校を嫌がる素振りを見せたら、親はどうすればいいのか。松本先生にくわしく伺いました。

松本俊彦(まつもと・としひこ)PROFILE
国立精神・神経医療研究センター 精神保健研究所薬物依存研究部部長。1993年佐賀医科大学卒業。2015年より現職。2017年より国立精神・神経医療研究センター病院薬物依存症センター センター長を兼務。現在、日本精神科救急学会理事、日本社会精神医学会理事、日本アルコール・アディクション医学会理事、日本学術会議アディクション分科会特任連携委員。著書多数。

「もう少し頑張ってみれば」は子どもを絶望させる

我が子が「学校に行きたくない」と言ったときに、「そっか。じゃあ休んでいいよ」と迷わず返せる親は、けっして多くないでしょう。

「学校は行くもんだ!」と強引に送り出したり、「どうして行きたくないの?」と理由を無理に話させようとしたり……。あるいは、「不登校」の状態が続いている子どもをどうにか学校に戻そうと、なだめたりすかしたり脅したり……。

もちろん、どれも「我が子のためを思って」のこと。しかし、不登校の子どもたちをさまざまな形で支援し続けている精神科医の松本俊彦先生は、「学校に行きたくないと言っている子どもを無理に行かせても、いいことは何もありません」と断言します。

「若年層の自殺について調べたこところ、かなり高い比率で不登校を経験していました。そこは予想の範囲内だったんですが、驚いたのが自殺を選んでしまった不登校経験者のうち、約75%の子どもが再登校していたんです」

親が強引に通わせたのか、子どもが親の期待に応えようとして無理をしたのか、再登校のきっかけはわかりません。はっきりしているのは、再登校したことによって結果的に最悪の選択を招いたケースが多いということ。

不登校だった我が子がふたたび学校に通い始めたら、親は「これでもう安心」とホッとします。しかし、じつは望まない再登校で子どもの心は限界を迎えているかもしれません。

「不登校になるより、はるかに深刻な問題は、周囲に合わせようとすることで心身が限界を超えてしまう『過剰適応』です。

その子は休みが必要な状態なのに、親や教員が無理に子どもを登校させる。そうすると『過剰適応』が引き起こされて、子どもは逃げ場がなくなり、うつ病や自殺のリスクが高まってしまいます」

親や教員は「学校を簡単に休ませたら不登校になってしまう(=『普通』のレールから外れてしまう)」という漠然とした将来のリスクを恐れて、目の前にある「過剰適応」という大きなリスクから目をそらしがちです。

当たり前ですが、我が子を追いつめたい、苦しめたいと思っている親はいません。しかし、なぜか判断を誤ってしまいます。

「親の側も、我慢が大事という思い込みや世間体といったものに『過剰適応』しているのかもしれません。不登校は子どもの防衛反応。『休みたい』と口に出したときは、かなり追い詰められている状態です。

 迷わず休ませてください。そこで『もう少し頑張ってみれば』というセリフは、絶対に言ってはいけません。そう言われたら、子どもはどれだけ深い絶望を感じることか」

なぜ不登校を選ぶ子どもが増え続けているのか

不登校生徒数は、年々増え続けています。文部科学省の調査によると、2021年度は全国で約30万人。内訳は、小学校約8万人(1.3%)、中学校約16万人(5.0%)、高校約5万人(1.7%)です(カッコ内は全生徒数に対する割合)。コロナの影響か、前年に比べて2割以上増加しました。不登校は、もはや「珍しい事例」ではありません。

なぜ、こんなにも不登校が増えているのか。松本先生は「大きくふたつの理由がある」と言います。

「ひとつは、かつてほど『どうしても学校に行かなきゃいけない』という社会の圧力が弱まったこと。フリースクールなど、既存の学校以外の選択肢の情報も入ってくるようになりました。そういったことが不登校を決断するハードルを下げているのではないでしょうか。そしてそれは、望ましい傾向だと考えます。

もうひとつは、子どもが昔ほど画一的ではなくなって、十把一絡(じゅっぱひとから)げの軍隊調の教育に馴染まなくなっているからではないかと。もしくは少子化できょうだいが減ったからなのか、きちんと調査をしないと判断できませんが、不登校の支援活動をする中で発達障害の傾向があって枠に収まり切れないタイプの子どもと出会うことが増えました。

子どもがそれぞれの個性を発揮できて、結果として多様化しているのは、私はいいことだと思っています」

もしかしたら、昔から幅広い個性を持った子どもはたくさんいたのに、学校や世の中の縛りが強くて、それを発揮できなかったのかもしれません。今現在でも、学校に通うことが苦痛で仕方ないのに、「休みたい」という声を上げられずに必死で適応しようとしている子どもも、きっと少なくないでしょう。

「大人だって、多かれ少なかれ世の中に無理して合わせることもある。それは『過剰適応』しているじゃないかと言われたら、そのとおりかもしれません。でも大人には、今の会社を辞めても次があるといった考え方ができます。

忘れてはならないのは、子どもは生き方の選択肢のイメージが非常に狭く、限られているということ。

小学校4年生ぐらいまでは家庭が世界のすべてだし、高校1年生ぐらいまでは学校が世界のすべてなんですよね。学校という『当然行くべき場所』から外れた瞬間に、世界からはじき出された、世界に自分の居場所はないと考えてしまう。

だから、学校を休んでもいいよということと同時に、ほかにもたくさん選択肢はあるよ、苦しい場所で無理に頑張らなくても人生は終わりじゃないよ、ということを伝えていきたいですね」

「学校休んだほうがいいよチェックリスト」をどう使うか

子どもが「学校を休みたい」と言ったときに、親の判断を手助けをするツールとして注目されているのが、LINEを活用した「学校休んだほうがいいよチェックリスト」です。

不登校の支援団体である「不登校新聞」「Branch」「キズキ共育塾」が開発し、松本先生がチェック項目と回答を監修しました。

子どもの状態を尋ねる20項目の質問に答えると、「休ませましょう」「対話の機会を作りましょう」など5種類の回答が表示される仕組みで、利用はすべて無料。8月22日(2023年)にリリースされ、9月8日現在、約45000人が登録しています。

●公式サイト
「あまり項目が多すぎると使いづらくなってしまう。20に絞るのに苦労しました。どれも重要な項目ばかりです。休ませていいのかどうか迷っている親御さんは、ぜひこれを活用してほしい。

親御さんは『やっぱり行かせたほうがいいんじゃないか』という呪縛をなかなか振り払えません。余裕を持って休ませたとしても、マイナスになることはない。怠け癖がつくんじゃないかといった心配も、まったく無用です」

このチェックリストは、「学校に行っても大丈夫かをチェックするものではなく、休ませる決断をしてもらうためのもの」だと松本先生は言います。それは、多くの親が抱いている学校を休ませることへの抵抗感を払拭(ふっしょく)したいから。

「子どもの様子を見ていると休ませたほうがいいように思うけど……」と迷いつつ決断できない親こそ、手遅れにならないうちに活用しましょう。夫婦で意見が分かれたときに、相手にこれを見せて『ほら、やっぱり休ませないと』と説得するために使ってもらうのもいいんじゃないでしょうか」。

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